メイキング・オブ・『さよなら、ベルアイル』
2005 年 4 月 1 日。夜。
モニターの前で苦悶している男がいた。
# シェラ 『このままマビノギのブログになるなら、リンク解除して いいからね。自分とこも様子みてはずすからヨロシクです^^であ、 いつかお会いできる日まで。ばいちゅー』
うぎゃああああ
# カルガ一市民 『やっと本性が出ましたね(プ 女にばかりフレンドリーだったのはそういう種の下心があったんだな。 もうベルには戻ってくるな。』
うぎゃああああああああああ
ごッ、誤解だぁ――――ッ!!
すッ、すぐさま「これは嘘デスヨー。ほら、いやだなぁ、今日は何の日ですか? エイプリルフールですよー!」って書かねば! 誤解を解かねば!
し、しかしッ、まだ 4 月 1 日が終わるには時間がある。"祭り"が終わるにはまだ時間がある。せっかく、ここまで頑張ったのに、すぐばらしたら意味が。
あれだけ頑張った意味が――――!
いかにして、ほかほか亭は 4 月 1 日に嘘の日記を書くことを決めたのか
2005 年 3 月 31 日。PM 11 時 55 分。
そのとき、ほかほか亭は、露店 AFK するための肉を焼いていた。
そして、露店をしている間は、『べるぶらー』の blog を覗いて回ったり、いつも巡回しているニュース site などを見て回る。
いつもの日課。
ベルアイルでは、独立したベンダーシステムがないために、PC 自体がオンラインである必要がある上、その間は何もすることができないからである。
いつもなら、知識欲が満たされた頃にはほとんどの商品はさばき終わり、そこから次の商品のために動物を狩ったり、野菜や果物を採取をしたりと、ここからがいわゆる本当のベルアイルプレイとなるのだ。
その日もそのつもりだった。
しかし、気付いてしまったのだ。
それは、UO のニュース site を巡回していた時だった。本来ありえるはずのないアイテムが導入されていたり、公式が関西弁になっていたりという話。
そう、エイプリルフールの幕開けであることを初めて知ったのだった。
ここで――今思えば悔恨の情にかられるのだが――、 自分に"スイッチ"が入ってしまったことを否めない。
エイプリルフールである。
英国では、真面目なニュース番組で『パスタのなる木が発見されました』とかで、パスタを木に絡めさせているおじさんの映像を流す日なのである。
もちろん、日本でも、site を運営している人などが、一生懸命に知恵を絞り、それこそ 1 年以上も前からしこしこと仕込んだネタを披露する 1 年に 1 回のお祭りなのである。
blog とはいえ、自分も一国一城の主、site 管理者である。
義務感に燃えてしまったのだ。(――冷静になって考えてみれば、このときの自分はまるで流行病にかかったといってもいいほどの強迫観念に苛まれていたのだ)
4 月 1 日は嘘をついてもいい日である。
否! 4 月 1 日は嘘をつかねばならない日である!
さて、どんな嘘をつこう。
腕組みをしつつ、うーむと唸ると、「やはりベルアイル blog なのだし、ベルアイルのネタがいいだろう」と方向性を定め、次々と泡のように浮かぶアイデアから「となると、新機能の搭載か」に辿り着いた。
確かに、無難といえば、無難。それなら、そんなに用意するものもない。文字だけで済むし。
しかし――しかし、いや、まて。
嘘といっても『ついていい嘘』と『ついてはいけない嘘』がある。
かの『ドラえもん』でも、しずかちゃんが 「よろこばせといてがっかりさせるのはかわいそうよ」「それより、びっくりさせといてあとでほっとさせるほうが親切だわ」 と言っているではないか。
つまり、ベルアイルでは「キーカスタマイズが導入されたよ、ウヒョー!」というのが『ついてはいけない嘘』であるわけで、現状のベルアイルテスターの間では暴動すら起こりかねない。
そして、さらに言えば、『他人に迷惑をかけない嘘』でないといけない。
「どこそこの有名なべるぶらーが閉鎖する」とか「引退」するなんてのは、言語道断。
ということは――泥を被るのは自分しかいない。
よし、対象は『自分』に決まった。
次はどうする?
『自分が』――嘘を信じさせるためにはそれっぽい話ではないといけない。『自分が』ベルアイルの改善を任されることになりました、なんて書けば、エイプリルフールの嘘ではなく、何かマズイ冷笑のされ方をして終わってしまう――『自分が』――ベルアイルを――やめる――そう、やめる!
『自分がベルアイルを引退する』!
これはけっこうありそうだ。自分が、だけでなく、ベルアイルのテスターなら誰もが思うことであり、毎日、それに耐えていると言っても過言ではない。実際、それで去って行った人も多いはずだ。
ここで、自分が、ベルアイルをやめても、何もおかしい話ではない!*1
よし、それなら、『やめて』どうする? 人生には終わりがあれば始まりがある。『やめて』何をする?
最初は『存在しない MMORPG に引っ越しする』というネタで行こうと考えていた。
そうだな、『Wizardry Online』とかにしておこうか。
http://wizardry-online.com/ みたいなそれっぽい URL のリンクでも貼っておいて、辿っても 404 なんてのはどうだろうな。
――いや、駄目だ。画像を用意する時間がない。
blog だからテキストオンリーなんていう考えはすでに古い。現にどこの blog を見ても、SS がいっぱいいっぱい並んでいるではないか。
『実在しない画像』を用意するのは、『実在しない MMORPG』で嘘を貫くために必須! あの『Univers○l Century』の初期でさえ、ちゃんと SS は作っていたではないか!
しかし、ふと、デスクトップに瞬くデジタル時計を眺めれば、すでに夜中の 2 時になろうという時間であった。
4 月 1 日の AM 2 時を過ぎようとしているのである。
当然、コラージュ画面などを作ったこともない自分が、そんなことに手を出せば、4 月 1 日中に終わるはずがない。
日記自体を今日中に完成、いや、『 4 月 1 日にその日記を読んでもらわないと意味がない』のだ。
どうする、どうする――
そして、答は身近なところからやってくる。つけっぱなしでだらだらとやっていた Skype のテキストチャット。リアル友人の助言から。
『マビノギのおっぱいにやられました、ごめんなさい。とかか』
それだ!
その時、すでに自分の指はマウスを駆り、キーボードを走り、Nexon の ID を取得せんと閃いていた。
(ちなみに、そのときに辿ったリンクは『o(*釻∇釻)o ワクワク on MMO(アルベール=トリーさん)』だったことをここに白状しておく)
『マビノギ』プレイ日記への長き道程
ゲーム用 ID を取得し、クライアントをダウンロードしつつ、ゲーム中のフレンド達に『用事が入ったのでログアウトする』旨を伝え、すぐさまログアウト。
この『作業』のためには 1 日のプレイを潰すのも仕方ない。いや、何事にも優先せねばならないのだ。
なんたって 1 年に 1 回しかない日なのだから!
動機は置いておくとして、何故、クライアントを落としているのか?
嘘の日記を書くのに、実際にプレイする必要はないのではないか? 『ベルアイルやめました』『マビノギ始めました』だけでいいのではないか?
それには 2 つ解答がある。
- 画像を偽造する必要がない
先にも書いた通り、画像は必要なのである。しかし、実際にプレイして SS を撮れば、わざわざ偽造するまでもなく、『本物』が手に入るのだ。
そして、
- 嘘の記事を書くわけにはいかない
からである。
例えば、マビノギで検索してテキトーに画像をパクってくるという手段もあった。マビノギ blog を漁れば、ログインしてからの体験談日記くらい見つかるだろう。
しかし、それでは人を騙せない。
人道的にもマズイ。
そもそも、後先考えずパクったとして、所詮、他人の体験なのだ。それをリアルに表現することはできない。必ずボロが出る。
それに、自分の blog なのだから、自分が体験したことを書かずして、そこから何かを導き出さずして、『ほかほか亭がマビノギを体験した』というリアルを作り出すこと自体が不可能なのである。
ここを見てくれてる人は、『ほかほか亭の書き方』というものを知っている。
だから、『ほかほか亭のマビノギプレイ日記』が数行で終わってはいけないのである。
ゲームをインストールし、ゲームスタート。
この間もエディタにメモをする手は止まらない。
まずは、あの噂のチュートリアルにて、目を皿のようにしてネタを探す。
『あの選択肢』を見つけられないと、今回の 80% は意味がなくなるのだ。
某巨大掲示板で見たそれは、それほどのインパクトがあるものだった。はっきり言って、今回のメインと思っていい。
このために、SS 撮影用のツールも導入した。
おそらく本体にそういう機能があるとは予想されたが、公式にはっきりと載っていないからには、大事な一瞬を逃してしまう恐れもあるからだ。
この計画に " 明日またやればいいや " は、あり得ないのである。
1 分 1 秒が真剣勝負だった。
しかし、ここで問題が発生。
戦闘の仕方がわからない――いや、正確に言えば『武器がどこで手に入るかわからない』。
普通、自分が MMORPG をやる上ではありえない状況だった。
いつもなら、前情報を仕入れ、操作方法は元より、基本的なことくらいなら wiki なり何なりで知っているからだ。理解するまでは、それに 1 日以上かけることだってある。
やりこもうとしているゲームなら、だが。
素手で戦闘はできる。しかし、『ベルアイルを引退して、これから永住の地としてマビノギを選んだ者』が、武器がないから素手で戦う行為を選ぶのがはたしてリアルか?
素手戦闘が好きだ、カッチョいい、ということをベルアイルでもしていたなら、それはリアルだっただろう。しかし、不幸にもそうではない。
ここで、しばらく逡巡してしまい、決断するまでに数分を経る。
戦闘部分の描写を省こう。
MMORPG において戦闘の描写を省くことがどれだけ無謀かは知っている。
TRPG のシステムにおいても、何はともあれ戦闘ルールにかなりのページ数を割かれていることからもわかる通り、人間というのは戦いたい生き物なのである。
『人がいっぱい集まるゲーム』である MMORPG において戦闘を無視することはできない。日記なら必ず戦闘には触れる。
しかも、そもそも体験量が足りない。クエストはナオからのが終わっただけであり、次のクエストは信じられないことに詰まっている。お金もない。今のところ、次のクエストもわからず、そこにいる人達に聞くわけにはいかない。
何故なら、たぶん彼等は親切だからだ。
きっと、『これからもマビノギをプレイする上での注意点』などを細かく教えてくれるに違いない。自分でもそうする。
しかし、wiki を検索して調べる時間も、親切な助言を乞う時間も自分にはないのだ。
そこで、自分は何度目かの閃きを得る。
ゲームのことを書かなければいいんだ。
結果、ああいう動かし易いキャラが完成した。
『 " 萌えマニア " ほかほか亭』の誕生である。
自分らしいところを自分が貫き、途中で『 " 萌えマニア " ほかほか亭』という擬似人格を操り、暴走させる。
"彼"なら、「おっぱい! おっぱい!」と言うだけで数行を埋めることができるし、実際、よく働いてくれた。
お蔭で、それ以上マビノギを続ける必要もなく、安心してログアウトすることができたほどだった。
そして、過ち
テキトーな場所でログアウトして、溜めておいたメモを頼りに書きまくる。
そして、『さよなら、ベルアイル』が完成した。
一応、『4 月 1 日』であることを匂わす一文を加え、『あぶり出し』もつけ、自分は満足気に眠りについたのだ。
しかし、自分は間違いを犯していた。
後に、このネタを披露した UO フレンドに言われた言葉が、それを如実に表している。
で、どこからどこまでが嘘なの?
「どこまでって、そりゃ……」と返答しようとして、やっと過ちに気付いた自分は、まるで金魚のように口をぱくぱくさせて、続く言葉が見つからない。
そう、それはあまりにも真面目な『真実』のレポートだったからである。
以前からベルアイルの要望ネタのために、他の MMORPG をやってみようという計画があった。
もちろん、オープンβ中のマビノギも例外ではなく、色々と好評の部分を体験したときには、是非細かく分析してみようと思っていた。
つまり、本当に暴走していたのは『"萌えマニア"ほかほか亭』ではなく。
『リアルの自分』だったのである。
そして、2005 年 4 月 1 日夜。
モニターの前で苦悶している自分がいた。
日記は真に迫っていた、と思う。けっこう騙せたと思う。
ただ、洒落になっていなかった。
引っ越し先がマビノギってのもリアル過ぎた。
シェラさんのコメントを見て新たな驚異に気付く。
ここがベルアイル blog じゃなかったら、リンクする理由がないじゃ――――ん!
こうして、4 月 1 日が無事終わるまで、コソコソと『無言でリンクが消されてないか』をチェックして回る情けない男の姿があった。
何故に、騙した方がこんなハラハラせにゃならんのか。
とほほ。
ちなみに、あの日記、1 回、手違いで消してしまってます。
同じ文章を 2 回打つのはけっこうツライものがありました……(涙
『事実』へのフォロー
というわけで、「おっぱい! おっぱい!」な"彼"以外は、すべて思ったこと、感じたこと、事実です。
実際に体験してみて、やっぱりマビノギはちゃんと『可愛い』ことをうまく表現している優良な MMORPG であり、操作性もストレスなく、とても丁寧に作られているように感じられます。
あと、『萌え』について。
ぶっちゃけて言えば、自分は男なので、『可愛い』ものには二次元だろうが三次元だろうが、興味はありますし、エロイのだって嫌いではありません。
もし、ベルアイルをやっていなければ、マビノギをしていたかもしれません。
永住するかどうかは別として。
ただ、いくらステーキが美味いからといって連日ステーキはどうか?
ステーキしかメニューにない(しかも 1 種類しかない)店はどうか?
そんな店ばかりの商店街はどうか?
……という疑問を感じているだけなのです。
飽きますよね?
たまには和食を食べたいんですよ。
いや、どちらかというと和食がメインで、たまにはステーキを食べたいんですよ。
でも、世の中は「ステーキばっかりでもいいじゃなーい」って人が多くて、和食の店が次々と潰れていってるんです。
中には、和食専門店だったのが、気付いたらステーキ専門店になって驚愕したり。
そりゃステーキ専門店が流行るにも理由はあるし、和食専門店が潰れていくのも理由があったりするんですが。
だから、ステーキオンリー派を否定するつもりはありません。ステーキ、美味しいですし。
でも、やっぱり自分は和食派だなぁ、と思うのです。
ステーキはね、思い出した時に食べたいのですよ。
自分がいまお気に入りの『和食専門店』は、ちょっと頑固だったり、意固地過ぎだったりと困り者ですが、潰れてほしくはないなぁ、と思いながら足しげく通っています。
他に自分が気に入る味の『和食専門店』は、ほとんどないですからねぇ。
*1:この事実に凹むのは、だいぶ後になる。