そくぶつ人間

 長いので、未来日記


 唐沢なをき さんって漫画家がいるんですよ。
 その先生が描いた 4 コマ漫画に「そくぶつ人間」ってのがありまして。
 「あー腹減った飯飯! TV観てぇ! TVつまんねーな! あーウンコしてぇ面倒だブリッ」*1みたいな感じで、欲をストレートに出して暴れてる入院患者がいて、最後のコマで医者に「貴方のお母さんは そくぶつ人間(植物人間)です」みたいなこと言われて娘が泣く、という……言葉で説明するとちぃとも面白くないですな。


 で、なんで、こんな話をしたかというと。
 MMORPG プレイヤーには、この「そくぶつ人間」が増えすぎてるんじゃないでしょうか。
 やれ簡単にしろ、やれ手間を減らせ、俺を強くしろ、もっと俺を強くしろ、俺の強さを邪魔するヤツラを黙らせろ、なんでも俺ができるようにしろ、俺をなんでも一番にしろ……


 小説とか漫画とか映画とかの作品を作ることを勉強した人なら、説明する必要もないことなんですが、ドラマには障害が必要ですよね。起承転結というか。
 「あなたのところに可愛い女の子が! あなたはその娘と結婚しました! 後は延々と1時間40分の間、ずっとラブラブ」なんてのは、流石の今でもありえんでしょうし、「ジェイソンが現れた! 時代劇の殺陣並みの速度で1秒に1人殺した! あっという間に終了!」なんてのがあったらホラーファンは怒るでしょう。*2
 昔のジャンプ漫画を読めばわかる通り、無敵の主人公に強敵あらわる! 主人公が勝てない!というから、読者は主人公を応援したりするわけです。
 「無敵と思っていた自分よりも強い敵が現れる」ってのは、わかりやすい障害ですし、「闘いで勝つ」ってのはわかりやすい障害克服の表現ですからね。
 で、努力の結果、強敵を破った瞬間に訪れるカタルシス
 昔の『仮面ライダー』とかそうですな。昔のヒーローは、自分の未熟さに気付くと、すぐ猛特訓をしたもんです。


 漫画でいうと、現在は作品の楽しみ方も変わってきたようですけどね。
 主人公に自分を投影するという楽しみ方ではなく、自分のお気に入りのキャラを探すというのが今の読者の楽しみ方のようです。
 そのお蔭で、キャラを殺すこともできず、かといって新キャラを出さないわけにもいかず、増えるばかりのキャラの扱いに苦労しているように見えるのですが、いかがでしょう?*3
 もちろん、そこまで気をつけても、「私の愛する○○はあんなドジをしない!」とか「私の愛する○○はあんなことで苦労しない!」なんて "苦情" もいっぱい届くでしょうなあ。


 でも、それに全部応えて、いい作品が作れるんでしょうか?*4


 安易に殺すのもどうかと思いますが、安易に「死んでなかった」とかいうのも興醒めです。あのときに流した涙を返してくれよ、くらい言いたくなります。
 「それハラワタ出て死んでるだろ」という傷を受けてもピンピンしてるんじゃ、流石に現実に引き戻されます。それなら、最初からそんな傷受けさせるなよ。「すごいいきおいで かいひ した!」と言ってもらった方がかえって諦めもつきます。


 "そくぶつ人間" の言う通りにしたら、いい "作品" はできないと思いますよ。
 作者が、本当に「これがベスト!」と思えるなら、"苦情" に惑わされず、己を貫き通すべきです。
 もう、漫画とかアニメはしょうがないにしろ、これからのメディアである MMORPG の "作者" さんは気をつけた方がいいんじゃないでしょうか。*5

*1:記憶に頼っているのでここまで酷くなかったかもしれない……

*2:ジェイソンタイプのゾンビ侍か……いいネタかもしれん。いや、『無限の住人』があったか……

*3:昔は作者が「うるせぇ、生かすも殺すも創造者たる俺の自由だ!」って言ってもいい時代だった。……でも、ちょっとだけトミノさんは殺しすぎかもしれない、と本当にちょっとだけ思う。

*4:「生きるためにイヤイヤ作っている」なら、それはもう「作品」ではなく「そこらへんにある一本のビス」と変わらない。「MMORPGは芸術作品じゃない。"ビス" でいいじゃん」って意見も出ると思うが、そこらへんは察して、というか、空気読んで、というか。うまく説明できないが、"ビス" の否定もしないし、それでいい "部分" もあるが、見るからに "ビス" という物体(しかも「ありふれている」)だけで誰かの心を揺さぶることはできない。そもそも、"ビス" に感動できるなら、「それでない他の "ビス"」でも構わないことになる。

*5:ここまでダラダラ書いたが、要は「そくぶつ人間の言いなりになってベルアイルを骨抜き MMORPG にしないで」というベルアイルスタッフへの涙ながらの訴え。